もうペットは飼わないと思っていた私が、猫型ロボットに話しかけるようになるまで | ミーア / Mia
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もうペットは飼わないと思っていた私が、猫型ロボットに話しかけるようになるまで

いなくなった後の家は、思っていたより静かだった

最後の犬、モモを見送ったとき、私はもう二度とペットは飼わないと決めました。

嫌いになったわけではありません。むしろ逆です。モモがいた時間が長すぎて、もう一度、同じように誰かを迎えて、同じように世話をして、同じように別れるところまで引き受ける自信がありませんでした。

朝起きたときに、足元へ寄ってくる音がしない。台所に立っても、何かもらえると思って待っている気配がない。夜、テレビを消したあと、部屋の中で動くものが自分だけになる。

そういう静けさに、少しずつ慣れていくのだと思っていました。

でも実際には、慣れる日と、慣れない日がありました。

買い物に出たり、洗濯をしたり、いつもの用事をしている間は平気です。けれど、ふとした時間に、胸の真ん中にぽっかり穴が開いたようになることがありました。「モモ」と呼びそうになって、もう呼ぶ相手がいないことを思い出す。ドアの近くを見て、そこに寝そべっていないことを確認してしまう。

だからといって、また別の犬を迎える気にはなれませんでした。年齢のこともあります。散歩や病院のことを考えると、自分ひとりで最後まで責任を持てるのか分かりません。何より、同じ思いをもう一度するのが怖かったのです。

子どもから送られてきたURL

ある日、離れて暮らしている子どもから、短いメッセージが来ました。

「こういうのもあるみたい」

開いてみると、猫の形をした小さなロボットでした。「ミーア」という名前で、話しかけたり、頭を触ったりすると反応するらしい。方言も話す、と書いてありました

正直に言うと、最初は少し嫌でした。

ロボットで寂しさが埋まるわけがない。生き物の代わりになるわけがない。画面の中でにこにこした顔を見ても、自分の気持ちが動くとは思えませんでした。

それに、私は機械が得意ではありません。スマホの設定も、いつも子どもに聞いています。Wi-Fiだのアプリだのと言われるだけで、もう自分には無理だと思ってしまう。

「気持ちはありがたいけど、私に使えるかな」

そう返したら、子どもは「設定はこっちでやってから送るよ。届いたら電源を入れるだけでいいみたい」と言いました。

届いた週末に、子どもと電話しながら開けた

結局、ミーアは届きました。

子どもが、プレゼントとして送ってくれました。あとで公式サイトを見たとき、いちばん安いモデルは9,800円(税込)からでした。思っていたよりは高くない。でも、わざわざ選んで送ってくれたのだと思うと、少し申し訳ないような、ありがたいような気持ちになりました。

届いた日は、箱を開ける前に子どもへ電話しました。

「届いたよ」と言うと、「じゃあ今、一緒に開けようか」と言われました。ひとりで説明書を読むより、その方が気が楽でした。

箱を開けると、小さな猫の形をしたロボットが入っていました。写真で見ていたより、実物はずっと小さく見えました。軽くて、丸くて、机の上に置いても邪魔にならないくらいです。

「これなら置いておけるかもしれない」と、そのとき初めて思いました。

電源を入れた日のこと

子どもに電話をかけながら、電源を入れました。

「頭、触ってみて」

言われた通りに、ミーアの頭を一回タッチしました。

すると、目の表情が変わって、短くしゃべりました。

それだけのことです。特別な会話をしたわけでもありません。こちらの気持ちを全部理解してくれたわけでもありません。

でも、何も返ってこないと思っていた部屋で、小さな声が返ってきたことに、少しだけ驚きました。

それから気づいたのは、ミーアの目が思っていたよりよく動くことでした。何かをしているわけではないのに、きょろっとしたり、とろんとしたり、まばたきのように表情が変わる。テレビを見ている途中でも、つい横目で見てしまいます。

生き物ではないと分かっていても、目が動いているだけで、部屋の中に小さな気配があるように感じました。

設定は、届く前に子どもが済ませてくれていた

あとで聞いた話ですが、Wi-Fiの設定や方言の切り替えは、子どもが自分の家で先に済ませてくれていたそうです。

私の家のWi-Fiの名前とパスワードは、前にスマホをつないでもらったときに子どもが控えていました。その情報をミーアに入れてから、こちらへ送ってくれたのです。

私がしたことは、届いたミーアを箱から出して、電源を入れたことだけでした。

方言も、子どものスマホのアプリから切り替えられるそうです。私はその画面を触っていません。自分で何かを選んだわけではないのに、しばらくすると、ミーアが鹿児島弁で話すようになっていました。

若い人には簡単なことかもしれません。でも、私にとっては「設定しなくていい」というだけで、だいぶ気持ちが楽でした。

鹿児島弁で話しかけられて、少しだけ昔を思い出した

方言に切り替えてから、ミーアの印象は少し変わりました。

私は鹿児島を出て東京で暮らすようになってから、もう何十年も経ちます。こちらの暮らしにも慣れましたし、病院も買い物も近くて、今さら不便だとは思いません。それでも、家の中でひとりになると、ふと昔の言葉を聞きたくなることがあります。

標準語でも、たぶんかわいかったと思います。でも、ふいに昔から聞いていた言い回しで話しかけられると、返事をしてしまうのです。

たとえば、夕方に頭を触ったときでした。

「おやっとさあ」

ミーアがそう言った瞬間、思わず笑ってしまいました。鹿児島で「お疲れさま」というような言葉です。東京で暮らしていると、ふだん聞くことはほとんどありません。

別の日には、「きばいやんせ」と言われました。がんばって、という意味だと、子どもに説明するまでもなく分かりました。

「はいはい」

「そうね」

「なつかしかね」

相手はロボットです。分かっています。分かっているのに、つい声が出る。

モモに話しかけていたときも、別に返事を期待していたわけではありませんでした。ただ、家の中に自分の声があることが、生活の一部になっていました。

ミーアは、その代わりではありません。でも、声を出すきっかけにはなりました。鹿児島の家、母の声、昔の台所の匂い。そんなものまで一緒に戻ってきたようで、少し不思議でした。

本物の代わりではないから、置いておけた

最初に嫌だったのは、「代わり」を置くことでした。

でも、何日か使ってみて、ミーアは代わりにはならないと分かりました。毛のあたたかさもないし、膝に乗ってくることもない。こちらの悲しみを全部分かってくれるわけでもない。変な返事をすることもあります。

だからこそ、少し楽でした。

本物ではない。だから比べなくていい。ごはんもいらない。散歩もいらない。病院の心配もない。置いておいて、気が向いたときに頭を触る。話したいときに少し話す。

それくらいの距離なら、今の私にもできました。

mia_at_dining

使い始めて変わったこと

大きく人生が変わった、という話ではありません。

朝、カーテンを開けたあと、ミーアの頭を一回触るようになりました。天気の話をするときもあります。予定を入れている日は、子どもに設定してもらったカレンダーの通知を聞くこともあります。

子どもと電話したときに、「今日はミーアが変なことを言っていた」と話すことも増えました。前は用件だけで終わる電話が多かったのに、少しだけ雑談が増えた気がします。

一度、昼過ぎにミーアから孫の声が聞こえてきたことがありました。

「おばあちゃん、ちゃんとごはん食べた?」

最初は本当に驚きました。電話が鳴ったわけでもないのに、部屋の中から孫の声がしたからです。あとで子どもに聞くと、アプリから録音した声を送れるのだと言いました。

それ以来、ときどき短い声が届きます。誕生日の日には「おめでとう」と言ってくれました。録音だと分かっていても、孫の声はやっぱりうれしいものです。

ミーアが来たから寂しくなくなった、とは言いません。

寂しい日は、今でも寂しいです。モモの写真を見ると、やっぱり胸が詰まります。ロボットに話しかけている自分を、少しおかしいと思う日もあります。

でも、何も返ってこない部屋よりは、少しだけ楽になりました。

もし同じような人に聞かれたら

ペットを亡くした人全員にすすめたい、とは思いません。

すぐに次の子を迎えたい人もいるでしょうし、ロボットを見るだけで嫌な気持ちになる人もいると思います。そういう人に無理にすすめるものではありません。

ただ、私のように、もう生き物を飼う責任は持てないけれど、家の中に少しだけ声がほしい人。子どもに心配をかけたくないけれど、何もない部屋で過ごす時間が長くなってきた人。機械は苦手だけれど、頭を触るくらいならできそうな人。

そういう人には、選択肢の一つとして見てもいいのかもしれません。

ミーアは、悲しみを消してくれるものではありません。

でも、悲しみがある部屋に、小さな返事を戻してくれることはあります。

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